住宅ローン返済中なので、任意整理で処理をお願いしたいとの相談を受けることがあります。 ただ、本当に任意整理にこだわっていいのだろうか?
当事務所には、住宅ローンの返済が難しくなり、債務整理の相談に来られる方も珍しいことではありません。
その場合で、相談者の中には、相談者の方から任意整理を希望される方も中にはいらっしゃいます。住宅ローンがある場合で持ち家を手放したくないと思いから、どうにか穏便な方法で解決できないかと考えていらっしゃるのではないかと推察するのですが、「持ち家を残したい!」という希望から、安易に「任意整理」を選択することが適切かどうかは、よくよく考えなければならない点で、債務整理のほかの手段にも目を向ける必要を忘れないでほしいと思います。
たしかに任意整理を選択すれば、住宅ローンと持ち家の現状維持を図るプランは考えられる。
住宅ローン返済中の任意整理でも、家を残せる場合があります。任意整理とは、裁判所の手続きを利用せずに、債権者と債務者の当事者同士による、返済額の減額交渉の一種ですので、住宅ローン以外の債務についてだけ任意整理の対象とするという方法もあるからです。
しかし、債務整理は、相談者の収支の全体のバランスを確認して、実現可能な返済計画を立てて、そのことに債権者が協力をしてくれなければ、解決にはなりません。
とくに任意整理の場合、当事者対等の立場での話し合い(交渉)になり、たとえ弁護士が債務者のお手伝いをしたとしても、債務者側に何らかの強制力が生じるわけではありません。減額交渉において、債権者が応諾してくればければ、実現しませんし、現実問題、任意整理の処理において、債権者側が大きな譲歩をしてくれるということはほぼないと考えておいた方がよいです(※)。
ですので、折角の持ち家を手放したくない、住宅ローンだけは何とか支払いを続けていきたいとの希望が強い場合には、個人再生手続きの利用をお勧めすることが多いです。
※ 任意整理に期待を寄せる風潮はなぜ生じたのか
当事務所では、債務整理の手段として、任意整理の手段を選択することはあまりありません。もちろん、状況によって利用することはありえますが、積極的にお勧めすることはしていません。なぜかといえば、債務整理の方法として芳しい効果を上げられる手段とは言い難いからです。
しかし、初見の相談者の中には最初から「任意整理でお願いします」とやってこられる方もそれなりにいらっしゃいます。上記の例がその一例です。
なぜ、こうしたことになるのかと考えるに思い当たる事情が一つあります。それはかつて10年以上も昔の話になりますが、過払金の返還請求が全国各地で非常に盛んに行われていた時代があり(現在でも過払金事案はなくなったと言い切れませんが、その件数は当時と比べて雲泥の差があります)、当時の債務整理の処理方法として過払金があるがゆえに「任意整理」が効果的であり、非常に多く利用されていたからです。当時は、債務整理が必要と思っていたら、実は逆に過払金というお金が返ってくるといった事例が頻繁に発生していたため、そうした場合の処理方法として、自己破産や個人再生ではなく任意整理が選択されていました。
一見多重債務者のように見えていたけれど、実は、一部では過払金が返ってきて、別の一部では借金がやっぱり残っていた。
そのため此方から取り返した過払金で彼方の借金を返済するといった処理を「任意整理」として行っていました。
そうした経緯と過去の記憶の人伝の継承から、過払金回収事案がほとんどなくなった今日においても、未だに任意整理での処理が効果的であるとの風潮が巷には残っているのだと思っています。私の私見を交えた話となりましたが、やはり債務整理の手段としての任意整理について、あまり大きな期待を寄せることは得策ではなく、借金でお困りの方は、専門家である弁護士にご相談されることをお勧めします。
なお、その際には、ご自身の抱える負債全てを最初から申告することが大切です。決して借金の一部だけを処理すれば何とかなるとは考えないでもらいたいです。